第957話の衝撃――センゴクが語るロックス・D・ジーベック、「世界の王」を目指した男
第957話「ULTIMATE」は、ONE PIECEの歴史観を根底から塗り替えた一話だ。懸賞金の更新情報というファンサービスに目を奪われがちだが、この話の本質はセンゴクの口から語られたロックス海賊団の全貌にある。四皇の懸賞金が明かされるという衝撃の中で、それ以上の爆弾が投下された。「かつて白ひげもビッグ・マムもカイドウも、一つの海賊団に所属していた」という事実だ。
ロックス・D・ジーベック。この名前が初めて明確に語られたのが第957話である。彼は「世界の王」になることを目指し、世界政府に対して直接戦争を仕掛けた男だった。ロジャー以前の時代、海の支配者として君臨していたのはロックスだったのだ。しかし世界政府はロックスの存在を歴史から抹消しようとしている。センゴクが語る情報ですら「多くが闇に葬られている」と前置きされており、ロックスに関する資料がいかに徹底的に消されてきたかが窺える。
「あの男は名前すら消えかかっている 世間じゃ知らねェ奴の方が多い」(センゴク、第957話)
注目すべきは、ロックスが「D」の名を持つ者だという点だ。ロックス・D・ジーベック。ルフィやロジャー、黒ひげと同じ「Dの一族」でありながら、その目的は「自由」ではなく「支配」だった。これは黒ひげの項でも触れたことだが、Dの一族の中にも「解放の系譜」と「支配の系譜」が存在することの最も古い証拠がロックスなのだ。
「ロックス海賊団 "世界の王"を目指した男が率いる 一つの利益を目的に集められた個性の集団」(センゴク、第957話)
センゴクがこう表現したように、ロックス海賊団は「仲間の絆」で結ばれた集団ではなかった。利益のために集まり、船内で殺し合いすら日常的に起きていたという。ルフィの麦わらの一味とは対極の存在だ。にもかかわらず、その構成員の顔ぶれを見れば、この海賊団がいかに異常な戦力を有していたかがわかる。後に四皇と呼ばれる怪物たちが全員「部下」だった時代。それがロックスの時代だ。
第957話は「最強」の定義を読者に問い直させた。ロジャーでも白ひげでもなく、彼ら以前にそのさらに上に立っていた男がいた。世界政府がその存在を消そうとするほどの脅威。ロックス・D・ジーベックという男の影は、最終章に至るまでONE PIECEの根幹に横たわっている。
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船員名簿――白ひげ、ビッグ・マム、カイドウ、金獅子のシキ、そして「未知の怪物」たち
ロックス海賊団の船員名簿は、ONE PIECEの歴史における「オールスター」と呼ぶにふさわしい。センゴクが第957話で挙げた名前を一人ずつ見ていこう。
まずエドワード・ニューゲート(白ひげ)。後に「世界最強の男」と呼ばれ、グラグラの実で世界を揺るがした四皇。ロックス海賊団の壊滅後に独立し、白ひげ海賊団を結成した。「家族」を何より大切にした白ひげが、かつて殺し合いが日常の海賊団にいたという事実は、逆に彼が「家族」を求めるようになった原点を示唆しているのかもしれない。
「ロックス海賊団のクルーは仲が悪く 船内でしょっちゅう殺し合いをしておった」(センゴク、第957話)
次にシャーロット・リンリン(ビッグ・マム)。食いわずらいで暴走する化け物じみた力を持つ彼女は、ロックス海賊団時代から既に規格外の存在だったはずだ。ワノ国編でカイドウと再会した際の「ロックス以来の同盟」という発言(第954話)は、二人のかつての関係を端的に示している。そしてカイドウ。「この世における最強生物」と呼ばれる男は、ビッグ・マムから悪魔の実を譲り受けたとされる(第999話)。ロックス海賊団時代のカイドウはまだ「見習い」に近い立場だったという説もあり、当時の船内での力関係は想像を絶する。
「あの時お前に一生の借りをやったな リンリン」(カイドウ、第999話)
金獅子のシキもロックス海賊団の一員だった。映画STRONG WORLDで描かれた彼は、フワフワの実の能力で艦隊ごと空に浮かせる規格外の海賊だ。ロジャーの時代には白ひげと並ぶ大海賊として名を馳せていた。インペルダウンから自力で脱獄した唯一の男でもある(シリュウが手引きした黒ひげとは異なり、文字通り「自力」で)。
そして名前だけが挙がったキャプテン・ジョン、銀斧、王直。キャプテン・ジョンはスリラーバーク編でゾンビとして登場しており(第449話付近)、莫大な財宝を隠したとされる伝説の海賊だ。バギーがその財宝を狙っていたことも描かれている。銀斧と王直については現時点で詳細がほぼ不明だが、ロックス海賊団の構成員として名が挙がる以上、相当な実力者であったことは間違いない。王直についてはハチノスの元支配者だったという情報もあり、黒ひげがハチノスを奪取した際に関わっている可能性がある。
この面々が一つの船に乗っていたという事実自体が、ロックス海賊団の異常性を物語っている。全員が後に独立して「伝説」になるレベルの海賊たちが、一人の船長の下に集まっていた。ロックス・D・ジーベックとは、これらの怪物を従えるだけのカリスマと暴力を兼ね備えた存在だったのだ。
ゴッドバレー事件――ロジャーとガープの共闘、天竜人を守った事件の真相
38年前、ゴッドバレーという島で起きた一大事件。ロックス海賊団が天竜人とその奴隷たちを襲撃し、それを阻止するためにロジャーとガープが手を組んだ。この「ゴッドバレー事件」こそが、ロックス海賊団壊滅のきっかけであり、ガープが「海軍の英雄」と呼ばれるようになった原点だ。
「ゴッドバレー事件 それは天竜人とその奴隷達を守る為にガープがロジャーと手を組んで立ち向かった事件」(センゴク、第957話)
ここで注目すべきは、ガープが「天竜人を守った」という事実だ。天竜人を忌み嫌うガープが、なぜ天竜人を守るために戦ったのか。この矛盾は第957話の中でも明確に解消されていない。しかし「奴隷たちを守る」という動機があったとすれば、ガープの行動にも一定の整合性が出てくる。天竜人ではなく、天竜人の犠牲になっていた人々を救うためにガープは立ち上がった――そう解釈するのが自然だろう。
ロジャーとガープの共闘という構図も衝撃的だ。海賊と海兵がロックスという共通の敵に対して手を結んだ。センゴクは「お互いが敵同士なのに力を合わせた」と語っているが、この「海賊と海兵の垣根を超えた共闘」は、ONE PIECEの世界観における重要な前例だ。最終章で同様の構図が再現される可能性を強く示唆している。
「ロジャーとは何度も殺し合った仲だが あいつは敵ながら何度もおれを助けた あの日のロジャーはまるで…」(ガープ、第957話)
ガープがロジャーについて語る際の表情は、単なる敵への敬意を超えたものがある。二人の間には「海賊と海兵」という立場を超えた信頼関係が存在していた。ゴッドバレーでの共闘がその絆の原点であり、後にロジャーがガープにエースを託した理由もここに繋がるのだろう。
そして最も不気味なのは、ゴッドバレーという島自体が地図から消されているという事実だ。エニエス・ロビーのように「世界政府にとって都合の悪い場所」が消されるのはONE PIECEでは珍しくない。しかしゴッドバレーの場合、島そのものが物理的に消滅している。ルルシア王国のように「上からの攻撃」で消されたのか、それとも別の理由があるのか。世界政府が天竜人絡みの事件を隠蔽するために島ごと消すという判断を下したとすれば、その事件には「天竜人の恥部」が含まれていた可能性が極めて高い。ゴッドバレー事件の全貌は、まだ語られていない。
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ロックスの遺産――黒ひげがハチノスを拠点にする意味、ロックスの意志の継承者
ロックス海賊団は壊滅した。しかしロックスの「遺産」はONE PIECEの世界に深く根を張り続けている。その最も顕著な例が、マーシャル・D・ティーチ(黒ひげ)だ。
黒ひげが本拠地として選んだ「海賊島ハチノス」は、かつてロックス海賊団が結成された場所だとセンゴクは語っている(第957話)。これは偶然の一致ではない。黒ひげは意図的にロックスゆかりの地を拠点にしている。ロックスが「世界の王」を目指したように、黒ひげもまた世界の支配を狙っている。目的、拠点、そして「D」の名。黒ひげはロックスの意志を最も色濃く受け継いでいる人物だ。
「ロックス海賊団が生まれた島でもある "海賊島ハチノス"」(センゴク、第957話)
さらに踏み込んだ考察をするなら、黒ひげの本名「マーシャル・D・ティーチ」と「ロックス・D・ジーベック」の間に血縁関係がある可能性も指摘されている。直接の息子なのか、あるいはロックスの血を引く一族なのか。黒ひげの船の名前が「サーベル・オブ・ジーベック号」であることも、この説を補強する根拠の一つだ。「ジーベック(Xebec)」は北アフリカの海賊船の種類を指す言葉でもあるが、ロックスのファミリーネームと完全に一致している。
「ゼハハハ…今からおれが この座に就く "海賊島"の提督だ」(マーシャル・D・ティーチ、第925話)
ロックスの遺産は黒ひげだけに留まらない。白ひげ、ビッグ・マム、カイドウ、金獅子のシキ――ロックス海賊団の元メンバーたちが独立後にそれぞれ「四皇」や大海賊として君臨した事実は、ロックスの海賊団が「次世代の海賊の育成機関」として機能していたことを意味する。殺し合いが日常の過酷な環境が、結果的に怪物たちを鍛え上げた。
カイドウがワノ国で「新鬼ヶ島計画」を掲げ、世界政府に対する全面戦争を画策したのも、ロックスの影響を受けてのことかもしれない。カイドウは「ジョイボーイ」を待ち望みながらも、自らは「ロックス的な手段」で世界を変えようとしていた。この矛盾こそが、カイドウという男の悲劇だったのだろう。
ロックスの遺産は、最終章においてさらに大きな意味を持ってくるはずだ。黒ひげがロックスの「計画」の続きを実行しようとしているのだとすれば、ルフィが対峙するのはロックスの亡霊そのものだ。ゴッドバレーで一度は潰えた「世界の王」への野望が、40年近い時を経て黒ひげという形で復活しようとしている。
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最終章への布石――ゴッドバレーの再来はあるか、シャンクスの出生との関連
第957話で明かされた情報は、最終章のあらゆる展開に伏線として接続している。まず「ゴッドバレー事件の再来」の可能性だ。38年前、ロジャーとガープが共闘してロックスを倒した。最終章では、ルフィとコビー(あるいはルフィとスモーカー)が共闘して黒ひげを倒すという構図が考えられる。海賊と海兵の共闘という歴史の反復は、ONE PIECEの「受け継がれる意志」というテーマとも完全に合致する。
「ロジャーの前の世代の "海の王者"だった…!! "ロックス"を知っているか?」(センゴク、第957話)
さらに重要なのが、シャンクスとゴッドバレー事件の関連だ。ゴッドバレー事件が起きた38年前、ちょうどシャンクスが生まれた時期と重なる。後に明かされた情報(第1096話付近)によれば、シャンクスはゴッドバレーでロジャーに拾われた赤ん坊だ。天竜人の宝箱の中にいた赤ん坊。これが「フィガーランド家」の血筋だとすれば、シャンクスは天竜人の子供であり、五老星と対等に話せる理由も説明がつく。
ゴッドバレーで天竜人が何をしていたのか。なぜロックスが天竜人を襲撃したのか。その場に「奴隷たち」がいたのはなぜか。これらの疑問は第957話の時点では完全に解消されていない。しかしその後の展開で、ゴッドバレーで「人間狩り」のような娯楽が行われていた可能性が浮上している。天竜人が奴隷たちを島に放って狩りを楽しんでいた――もしそれが事実なら、ロックスの襲撃は「悪」とは言い切れない。そしてガープが「天竜人を守った」ことの意味も大きく変わってくる。
「ガープの功績は"実態"と若干ズレて世間に伝わっておるが…英雄は英雄だ」(センゴク、第957話)
センゴクのこの発言は極めて意味深だ。「実態と若干ズレている」とはどういうことか。ガープが英雄として称えられているのは「天竜人を守った」からだが、実態はそう単純ではなかったのかもしれない。ガープが守りたかったのは天竜人ではなく、天竜人の被害者たちだった可能性。そしてその「被害者」の中にシャンクスの親がいたのかもしれない。
第957話は単体で完結する話ではない。最終章に向けた巨大な伏線の起点であり、ロックス、ゴッドバレー、シャンクスの出生、黒ひげの野望、そして「D」の意味――これらすべてが一本の線で繋がっていく。ロジャーとガープが共闘した38年前の因縁が、ルフィの世代で決着をつけられるのか。第957話を読み返すたびに、尾田先生が最初からこの壮大な絵図を描いていたことへの畏敬の念を新たにする。
